本当の外壁塗装は奥が深いモノです
外壁塗装工事は顧客のクレームが最も多い業界という不名誉な評価があります。その原因は、塗装工事が誰でもできる工事だと思われ、安かろう悪かろうが横行しているからです。しかしそれは間違っており、塗装工事は複雑で奥の深いものであり、顧客の安心と満足のためには職人としての誇りと喜びを必要とするものなのです。
外壁塗装業者のいう施工件数の多さには注意が必要です
外壁塗装は一点物の工事であり、建物の工法や状況、周囲の環境などによって一つ一つが異なります。工業製品のようにスーパーやコンビニに行けば同じものが同じ価格で買えるというものではありません。
しかし現代社会の人々はスーパーやコンビニでの価格システムに慣れてしまっているので、塗装工事にも同じ値段付けを望むようになってきました。その結果、一括見積サイトや見積もり代行サイトが溢れかえり、残念ながらこれが悪徳業者や手抜き工事の温床になってしまいました。本来一軒ごとに違う施工内容、つまり一件ごとに違う見積価格を、強引に一律価格や最安値に均してしまえば、その無理がどこかに跳ね返ることになります。その「どこか」が多くの場合、技術レベルの低い業者であったり、手抜き工事であったりするわけです。
これを回避するには、塗装業者の実績を見るというのが解決策になります。塗装工事は一軒ごとに違うものなので、多くの施工経験があるということは、それだけ多くの経験を積んでおり、それに伴って技量や経験が蓄積されているものだと推測できるからです。
しかしこれにもまだ注意が必要です。「年間 塗装件数 ◯件」のように施工件数の多さを誇る業者はいて、新聞広告やホームページで大きくアピールしています。しかしこれらの業者の多くは塗装工事を下請けの業者や零細業者に丸投げしています。そのため、いくら施工件数が多くても、実際にその業者の技術や経験の蓄積になっているとは言えなくなっているのです。
これには3つの問題があります。値段の問題、責任の問題、そして技術の蓄積の問題です。
値段の問題は、元請けの取る中間マージン分が上記でいう「無理の跳ね返り」になってしまうことです。塗装工事のコスト構造は塗料費と人件費であり、コストダウンの余地はあまり大きくありません。これは塗装工事が一点物だということに由来しています。
コストダウンというのは多くの場合は規模を大きくすることで単価の減少を企図するものです。例えば新築の建売住宅ならば同じ場所に同じ規格の同じような家が立つことになるので、建材をまとめて発注することで安く調達すると言ったことが可能になります。外壁材に窯業サイディングが多用されるようになったのも、今まで現場で塗るなどして最初から作っていた壁材を工場生産することにより安価にしようとしたからです。
しかし塗装工事は一軒ごとに違うため、塗装工事を工場で行うこともできなければ、同じ区画の数軒をまとめて塗装するということもまずありません。仕入れを改善する経営努力で原材料費の多少の圧縮は可能かも知れませんが、多少という程度にとどまります。そのため中間マージンで削り取られた分は、人件費を圧縮することしかできなくなります。人件費を圧縮するということは、塗装の経験の少ない未熟な職人を使ったり、手抜き工事をして工数を短くしたり、調査やプランニングやアフターフォローをおろそかにすることです。
元請けと下請けの関係は、建築業のような専門的技能の求められる分野では必ずしも悪いものだとはいえないのですが、過度な安売り競争や丸投げは、このような質の低下に結びついてしまいます。
元請けがしっかり施工管理をして、下請けがその要望に応えられるだけの技量があればよいのですが、これも丸投げと無責任の結果を、どこかで無理な施工や手抜き工事で帳尻を合わせることになります。こういうことは過度な安売りをしたときに起こりやすいので、これも詰まるところは値段の問題と言えるかもしれません。
技術の蓄積の問題が一番深刻かもしれません。塗装工事というのは単に塗料を刷毛で壁に塗ればよいというものではなく、多くの要素が複雑に絡み合っています。塗料そのものの化学的・物理的特性に対する理解から始まり、周辺環境、塗装技術、塗装道具、施工条件といったものが必要になります。またお客様の要望を聞き取る技術や、それを正確な見積もりにする技術も必要です。
このように塗装工事は非常に奥の深いものであり、多くの施工経験があるということは、こういった複雑な要素同士のバランスを取るということも含まれているはずなのです。しかし元請けが下請けに丸投げをしてしまうと、このような経験の蓄積ができません。そのためいつまでも同じ失敗を繰り返し、志が低く、自己の向上よりも他人を騙すほうに力を入れてしまうという、情けない業者のあふれることになります。これが一番の問題であるといえます。
お客様の安心と満足、職人としての誇りと喜び
本当にきれいで長持ちするしっかりした塗装工事を行おうとすると、それなりの日数と工数と腕の良い職人が必要になります。そしてその工事の見積り金額は、適正な価格ではあっても最安値ではないかもしれません。
施工中や直後ならともかく、工事が終わって数ヶ月や1年もしてからボロが出ても、現場の施工業者は誰か分からず、元請けに連絡をしても約款の免責事項ではぐらかされます。手抜き工事の証明は専門家でなければ難しいです。
そして販売面では強い安売りの圧力がかかっており、最安値を謳って契約を取るだけ取ってしまって後は他人に丸投げして中抜きしてしまえば良いという商法が横行しています。
この条件でお客様の安心と満足を守ろうという気持ちになるのは難しいことです。しかし、それを捨ててしまうと、職人としての誇りも喜びもありません。
職人としての誇りと喜びを得るには、塗装工事の持つ複雑さと奥深さに正面から向かい合う事が必要になります。
それは毎日の現場の中で、作業手順の一つ一つについて改良と検証を繰り返すことです。塗装工事は建物一つごとに違うものであり、全く同じ現場はありません。そのためその建物に対する最適の塗装工事というのは、過去に行った工事と全く同じものではありえず、一つずつ少しずつ改良していくことになりますし、改良の結果は検証しなければ効果がわかりません。このサイクルを実直に弛みなく続けていくことが、奥深さと正面から向かい合うということになります。
また塗料は次々と新しいより良いものが出てきますし、工法や工具も進化します。街の環境や規制も、人々の好みも、日々変化していきます。塗装技術は経験と実績が大切なことではありますが、それに安住せず、新しいものの知識をつけることも大切になります。